500戸の断熱改修を家主が全額負担、英国の住宅政策が示す次の一手
ニュースの概要
英国北東部のスカーバラ、ウィットビー、イースト・クリーブランドで、500戸を超える住宅の省エネ改修が始まる。運営するのは住宅供給事業者のBeyond Housingで、費用は全額を同社が負担する。住人の持ち出しはない。工事の前には各戸で事前調査を行い、建物の状態を見て内容を決める。メニューは壁の内部に断熱材を入れる工事、屋根裏の断熱、暖房の制御の改善、換気設備の更新などである。施工は0800 Repairが担い、親会社のPHS Home Solutions Groupと連携して進める。全戸に同じ工事を当てはめず、家ごとに必要な手当てを選ぶ点が特徴といえる。
引用元: 英国ヨークシャー沿岸部の500戸超で住宅断熱・省エネ改修(This Is The Coast)
分析・見解
全戸一律ではなく事前調査で工事を選ぶ設計
この事業で最も注目すべきは、工事の種類より進め方である。各住宅でまず調査を行い、その結果で壁、屋根裏、暖房、換気のどれを手当てするかを決める。古い住宅では、壁の構造も築年数も一戸ごとに違う。同じ断熱材を一律に入れると、効果が出ない家や、かえって湿気が溜まる家が出てしまう。
調査を前に置くことで、工事の無駄が減る。同時に、改修後の効果を予測しやすくなる。省エネ改修の失敗の多くは、施工そのものではなく、診断の甘さから生まれる。
断熱と換気を同時に扱う意味
今回のメニューに換気設備の改修が入っていることは見逃せない。断熱を強めて家の隙間が減ると、空気の入れ替わりが少なくなる。すると室内の湿気が逃げず、結露やカビが増える。英国では断熱後の結露被害が過去に問題になった経緯があり、断熱と換気を一体で考える流れが定着しつつある。
暖房制御の改善も同じ考え方である。壁や屋根裏の熱を逃がさなくしても、暖房の入れ方が雑なら光熱費は下がらない。建物の性能と設備の使い方を、まとめて整えるのが今の標準になりつつある。
家主が全額負担できる理由を読み解く
費用を事業者が持つ点も重要である。住宅供給事業者は、住人に家を貸し続ける立場にある。建物が傷めば修繕費がかさみ、空室も増える。断熱で結露やカビが減れば、長期の維持費が下がる。住人の光熱費が下がれば、家賃の滞納リスクも減る。つまり全額負担は慈善ではなく、資産を守る投資として計算が合う。
日本では、賃貸住宅の貸主と借主で利益が割れる問題がよく語られる。貸主が工事費を出しても、光熱費の得をするのは借主だからだ。英国の社会住宅のように、貸主が長期保有を前提にする場合は、この壁が低くなる。
規制と補助が後押しする構図
英国では、賃貸住宅に最低限の省エネ性能を求める規制が強まっている。社会住宅の事業者は、期限までに一定水準へ引き上げる必要がある。今回の事業も、こうした流れの中にある。規制が先にあり、事業者が自ら動く。補助金だけに頼らない形は、日本の補助制度中心の進め方と対照的である。
今後は、改修後の実測データが公開されるかが鍵になる。光熱費の変化や結露の有無が示されれば、他の地域や民間にも広がりやすくなる。
ビジネスへの影響
診断を売りにする改修事業者が伸びる
今回の事例は、工事そのものより、事前調査と提案の質が価値になることを示している。施工会社は、断熱材の販売や工事の単価競争から、診断サービスへ軸足を移すと差がつく。家ごとの状態を記録し、工事前後の数字で効果を見せられる会社は、発注者から選ばれやすい。
赤外線カメラや室内の温湿度記録など、診断の道具に早めに投資しておきたい。
貸主向けに維持費で語る提案を用意する
賃貸や管理物件を持つ事業者には、光熱費の削減よりも、結露・カビの減少、修繕費の低下、入居期間の長期化を軸に説明する方が響く。借主の得になる工事でも、貸主の資産価値と空室率に結びつけて示せば、費用負担の判断がしやすくなる。
数年分の維持費の見込みを、工事費と並べた一枚の資料にしておくとよい。
換気と暖房制御を断熱とセットで見積もる
断熱だけを単独で見積もると、後から結露の苦情を受ける恐れがある。換気や暖房制御を最初から組み込めば、手戻りが減り、顧客満足も上がる。見積もりの段階で三つを一体として提示する習慣を作りたい。